Vol.141 土下座について
テレビ朝日系が元日と1月2日に放送した『芸能人格付けチェック! 2022年お正月スペシャル』と『夢対決2022とんねるずのスポーツ王は俺だ‼︎ 5時間スペシャル』の「土下座」を巡る対応の違いが、ネット上で話題を呼んでいると言います。
まず、『芸能人格付けチェック! 2022年お正月スペシャル』では、MCの浜田雅功さんが最終問題へと入る前に「(最低ランクの“映す価値なし”まで落ちてしまったお笑いコンビの)『見取り図』が土下座したら、(同様に“映す価値なし”まで落ちてしまったチーム)全員を(ワンランク上の)“そっくりさん”に戻します」と“特別ルール”を提案。むろん『見取り図』は迷わず土下座をしますが、すると“二流芸能人”になんとか踏みとどまっていた『ダブルHIROMI』の郷ひろみさんが「(自分も)土下座、ダメですか?」と懇願。躊躇するチームメイトのヒロミさんに「やりましょう! ワンランクアップだもん。だって頭下げて済むんですよ!」と促し、ダブル土下座を…。さらには波瑠さんと溝端淳平さん、藤原紀香さんと観月ありささんまでもが追従し、場は土下座祭り状態となりました。
いっぽうの『夢対決2022とんねるずのスポーツ王は俺だ‼︎ 5時間スペシャル』では、その1コーナーである『リアル野球BAN』で「石橋ジャパン」(石橋貴明さん・原田文仁さん・山崎康晃さん・吉岡雄二さん・ゴルゴ松本さん)が「侍ジャパン」(千賀滉大さん・栗原陵矢さん・村上宗隆さん・杉本裕太郎さん)に5回表に逆転され、5–3で惜敗。通常だと、ここで敗者側の「石橋ジャパン」が延長戦の了承を得るため、全員が横並びで土下座するのがお約束なんですが、今回は石橋さんが「でも、テレビ朝日が土下座させちゃダメだって…。コンプラふねふねってのにひっかかっちゃうらしんだよ」と切り出し、挙句の果てには「お前ら(=侍ジャパン)がやりたいって言うならいいよ! どうなんだよ!」と開き直って延長が成立。結局は、8回裏にゴルゴ松本さんが見事サヨナラの一打を放ち、石橋ジャパンが7-6で逆転勝利しました。
「土下座」が通年のシナリオにない番組に土下座が登場し、「土下座」が通年のシナリオとなっている番組から土下座が消えたことで、結果として二つの正月人気番組の「土下座」がフィーチャリングされた格好となったわけですが、はたして昨今のテレビ界では、石橋さんが前述したように
「土下座は本当に
コンプライアンスに
引っかかる行為」
…なのでしょうか? これら一連の土下座問題について論じている、とある週刊誌系メディアの取材に応じた某民放ディレクターは、こうコメントしています。
「近年、バンジージャンプやジェットコースターなどは要注意ネタとされています。番組側が無理強いしている、演者が本気で嫌がっている、そんな風に視聴者が見ると批判されるからです。同様に土下座という“罰ゲーム”も、要注意演出のひとつとされています。バラエティではパワハラに見せない対応が求められているんです」
まだ物事の分別がつかない子どもたちへの教育にもよろしくない…ってことなんでしょう。ドラマの『半沢直樹』ならOKで、バラエティはダメ…という理屈も不思議ですし、ぼくからすれば、人になにかをお願いする際、素直に頭を下げない子どもより、石橋さんみたいに
逆ギレして駄々をこねるクソガキのほうがずっとタチが悪いと思うのですが…(笑)?
Wikipediaによると「土下座」とは、
「日本の礼式のひとつで、姿勢は座礼の最敬礼に類似する。地面や床にひざまづいて深い謝罪や請願の意を表す場合に行われる」
…のだそう。つまり、現在の日本においては、もはや様式美と化している過剰なパフォーマンスでしかなく、“する側”と“される側”のあいだに生まれるのは「緊迫した空気のガス抜き的な安堵」と「失笑」のみであります。
ちなみに、ぼくはこの「土下座」というワードの字面も音感も大好きで、当然のこと“する”のも大好きです。
たとえば、必死に口説いているのに、終電とかを理由に帰ろうとしている女子に向かって、ラブホテル前で
「お願い! 入るだけでいいから!!
絶対に指一本触れないから!!!」
…と、小雨で濡れたアスファルトに…さらには、どうにかラブホへと連れ込むことに成功し、
「お願い! 先っちょだけでいいから!!」
…と、室内のケバケバしい配色のカーペットに両膝をついて頭を擦り寄せている自分には、一種のカタルシスのようなものすら感じてしまいます。
そんな一心不乱な真摯さのなかにも、どこかコミカルさがただよう最高のバランスを有する「土下座」が「コンプライアンス」という名の大波に飲まれてテレビから…いや、日本から消滅していくのはチョッピリ寂しい…と感じているのは、はたしてぼくだけなのでしょうか???