Vol.614 【セミフィクション短編小説】吾輩はネコである!
その昔…上野に古びた一軒の
「ポルノ映画館」
…があった。
今はどうなっているのか──もはや、
あるのかないのかすらわからないが…
そのポルノ映画館は、
知る人ぞ知るゲイの男性たちの
「ハッテンバ」
…であった。
しかも、どちらかと言えば
「ご年輩専門」
…であるようで、新しい出会いへの期待に
胸を躍らせるオールドゲイの皆さまらが、
おのおのに恋のかけ引きを楽しんでいる
…との噂を小耳にはさんでいた。
そんなポルノ映画館に、
取材だったのか、単なる好奇心だったのか…
その理由は忘れてしまったのだけれど、
ぼくは一度だけ足を運んだことがある。
館内の様子はこんな様子だった…と記憶する。
スクリーンには、普通に
「男と女がまぐわる
ポルノフィルム」
…が流れている。
客層は噂どおり中高年の男性ばかりだ。
それに目を向けている男性もいれば、
目もくれない男性もいる。
目を向けている男性たちは、
目こそ向けてはいるものの、
誰もがうわのそらだった。
「物色やナンパ待ち」
…に余念がないのが見て取れる。
目もくれない男性たちの振る舞いは…
一言で表現すると
「奔放」
…だった。
ある男性は、となりに座っている男性の
「怒張した股間」
…を捏(こ)ねくり回している。
ある男性は、となりに座っている男性の
セーターを捲(めく)り、
「乳首」
…を吸っている。
うしろを見れば…立見席の右端側で、
一人の中年のおじさんが
四人の初老のおじさんたちに
「輪姦」
…され、恍惚の表情を浮かべている。
中年のおじさんの尻に初老のおじさんたちの腰が
代わる代わる密着し、年齢に見合わぬ激しい
「ピストン運動」
…をなさっている。この場所で
「挿入から射精まで」
…を済ましてしまう目論見である
…らしい。まるで、
「漫画喫茶を
ラブホ代わりに使う若者」
…のようではないか。
一人、二人、三人…と、
果てていく初老のおじさんたちが、
手慣れた抜群のコンビネーションで、また
「ペッティング役」
…へと回る。
そして、事を終えた三人めの初老のおじさんが、
ズボンのチャックを閉めながら、
最後に残った初老のおじさんの肩をポンとたたく。
「アンタの番だよ」
…と言わんばかりに、ズボンを半ずらしにして、
剥き出しになった中年のおじさんの尻のほうへと
目配せをしている。
たとえば、意気投合し合った
複数の男性と一人の女性が
「複数プレイ」
…に興じている際にも、よく見かける
「阿吽(あうん)の呼吸」
…的なチームプレイだった。
運が良ければ、ここ“ハプバー”あたりでも
目の当たりにできる…かもしれない光景である。
ところが! ここからが少々
“従来” と違っていた。
なんと!! 最後の初老のおじさんは、
驚くべきことにその阿吽の誘いを
毅然とした態度で断ったのであった。
「吾輩はネコである!」
おあとがよろしいようで…m(__)m。