Vol.49 男の脱毛について(後編)
その日、彼女がぼくの自宅で準備してくれたのは「ワックス脱毛」!
2000円前後で購入できるワックス(=ろう)を温めてから皮膚に塗り、冷めてチューインガムほどの硬さになったら毛並みと反対の方向へと一気にはがしてむしり取る――といった、なかなかに野性味溢れる、いかにもむっちゃ痛そうな脱毛法でありました。
いっぺんでやってしまうのは、あまりにおっかなかったので、片腕を4回に分けての計8回という大雑把なプランを立ててみる。まずは、絡まり防止のため長すぎる毛を1センチほどまでカット。この段階で早くも痛みへの不安がじわじわと膨らんできます。チョコチョキと鋏を刻む音がカウントダウンにも聞こえて…。
次に、ワックスを塗って、その上に専用のペーパーを貼り付け、Nちゃんはその隅っこを掴み、
「やるよやるよ…」
…と、ぼくをビビらせる。イタズラな笑みを浮かべる彼女の眼は、心なしか瞳孔が開いています。
「ビリッ!」
「あひょ~~~~~~~~~っ!!」
名だたるリアクション芸人に勝るとも劣らない完璧な悲鳴が室内に響きわたり、Nちゃんの表情は恍惚感を増していく…。もしかして、濡れてるんじゃないのか?
この時点ですでに心身とも疲弊しきってしまったぼくは、彼女に
「せめてやる瞬間は予告なしで、さり気なくいきなりやって…ボクは横向いて鼻歌でも歌っているから」
…とお願いする。早くも
「もうやめよっかな…」
…といった弱音も脳裏をよぎる。しかし、あまりにキレイに無毛状態と化してしまった“一部分”だけを残したまま、外を出歩くことはできません。一度始めたら最後までやり抜くしかないのです。
『北斗の拳』に登場するザコキャラのごとく、聞き慣れない風変わりな断末魔の雄叫びをいちいちあげながらも、なんとか“施術”を終えました。予想以上につるんつるん状態となっています。(※冒頭写真参照)
中学生ごろからず~っと付き合い続けてきたふさふさの腕毛の埋もれていた自分の“ナマ前腕”はこんな風に血管が浮き出ていたのか…と、ささやかな新発見に軽い感動をおぼえる。「腕毛はないほうが筋肉質に見える」というメリットにも気づくことができました。
Nちゃんの「あるよりはないほうがいい(=モテる)」説は、おそらく最大公約数的に判断すると間違っちゃいないでしょう。ただ、ぼくが今回、あれほど拒絶感を示していた脱毛にあえて踏み切ったもう一つの理由は、
「女子は男子が喘いでいる姿を見るのが潜在的に大好き→大好きだから(ワックス)脱毛を口実にすれば、三段跳びで自宅に女子を連れ込むことができる」
…といった公式に裏付けされた、新手の“ナンパ術”によるものが大きいのかもしれません。そう。女子が抱く「SMへの潜在願望」を、もっともナチュラルかつカジュアルに満たしてあげられるプレイこそが自家製脱毛であり、しかも“永久”ではないがゆえ、何度だって同じ作戦が使えるのです。