Vol.145 「種存本能」という便利な言葉(後編)
「加齢するごとにモテなくなる」という現実を嘆くぼくに、
「だけど、60歳70歳になっても輝いている
男性はたくさんいるじゃないですか!」
…と、私の友人である脳神経外科医は言います。
たとえば、
「人間の嗅覚と視覚が退化した理由は、
喋ることができるようになったから」
…という話をご存じでしょうか?
我々人間は社会性がある動物ゆえ、嗅覚や視覚がさほど発達していなくても身の安全を保てるようになりました。別に、匂いで「食べられる物・食べられない物」を判別できなくても、人から会話を通じて教えてもらえば、それで済むわけです。
いっぽうで、衰えたとはいえ、動物としてのセンサーはまだ残っているため、自覚できていない匂いやビジュアルが脳には作用している場合もあります。
そして、
「昔はモテたのに…」
…と愚痴る男性は、年齢や職業から培ってきたあまりに豊富な恋愛経験がむしろアダとなり、過去のデータ、表現を変えると
「言語から構成されている情報」に頼りすぎて、
「女性の本能的な部分に訴えかける魅力」を無意識下で封印しているのです。
一般的な言葉を使えば、「フェロモンの減退」とでも表現すればわかりやすいでしょう。ただし「フェロモン」は、昆虫などの研究では大変進んでいるんですが、人間に当てはめるとまだまだ解明されていないことが多く、それよりは「オキシトシン」のほうが言葉としては正確かもしれません。
オキシトシンとは、とくに女性が出産時によく分泌するホルモンのことで、もちろん男性にだって発散は可能。これは別名
「思いやりホルモン」とも呼ばれており、ボディタッチを交わしているときなど、優しい気持ちでいる状態になるほど、発散されやすい。さらに「嗅がせること」で相手の信頼を得やすくなる作用があります。
実際、ある心理学の実験で「オキシトシンを嗅がせた人間の群と嗅がせなかった人間の群とでは周囲からの信用度が違ってきた」という結果も報告されている…とのこと。
「だいたいが『モテなくなった』
なんて台詞は、裏を返せば、
じつのところすごく
恵まれた悩みなんですよ」
…とも、私の友人である脳神経外科医は言います。
なぜなら「モテなくなった」ってことは、逆に「モテていた」経験があるわけですから。一皮剥けばけっこうな上から目線なのです。
もう、昔のように速い球が投げられない、数年前はストレートで三振取れたのに…と苦悩するベテランピッチャーのように、
過去のイメージに縛られるのはやめませんか? 昔はモテていた──その実績を自信に変えなさい!
かといって、「若いころはオレも…」的なおじさんになれってことではありません。それを常套句とするおじさんは確実に煙たがられます。はい、もはや脳科学云々とはまったく関係のない次元の問題ですね。
モテるために重要なのは「共感」を獲得すること。人間、基本は誰しもが「しゃべりたがり」で、年齢を重ね、いろんなバックグラウンドが増えていけばいくほど、「それを人に話したい」欲求が強くなってきます。そこをぐっとこらえて聞き役に回り、共感の空気をつくるよう努力すべきなのです。
とりあえずは、相手の発言を真剣に聞く姿勢を忘れず、女性の「しゃべりたい願望」を満たしてさしあげる、それこそ
「慈愛の精神」があれば、何歳になっても自然とオキシトシンを発散させることもきるはずなのです。