Vol.158 ソープへ行け!
いきなりではありますが、皆さまは、かつて多くの若者のあいだで圧倒的な支持を受けていた連載コラム
『試みの地平線』
…をご存じでしょうか?
『試みの地平線』とは、バブル期に一世を風靡した若年男子向けマニュアル総合誌『Hot-Dog PRESS』で、作家の北方謙三さんが、恋愛・仕事・人間関係・進路・自分探し…ほか、さまざまな若者たちの悩みをハードボイルドに一刀両断する体裁で、1986年から2002年の長きにわたって連載された、大人気コーナーでありました。
で、この『試みの地平線』の、もはや代名詞的金言として今でも語り継がれている北方先生の決め台詞が
「ソープへ行け!」
…であります。
元々は、童貞の男の子からの「女の子を好きになった。初体験をスムーズに済ませるにはどうすればいいか」といった悩みを受けての(比較的)真っ当な回答だった…とも聞きますが、しかも、北方先生自身は、とあるインタビューで
「じつは連載内では4回しか
『ソープへ行け!』
とは言っていない」
…とも弁明していますが(※いっぽうで、2001年の3月26日時点で
計59回言っていた、とのデータもある)、いずれにせよ「ソープ」なるワードの破壊力があまりに凄まじすぎるゆえか、
「カノジョが浮気しているかどうかが
心配で夜も眠れません」
→「ソープへ行け!」
「これまでの人生をやり直したい…」
→「ソープへ行け!」
「社内の上司からイジメに合っています」
→「ソープへ行け!」
「ハプバーにハマってしまいました」→
「たまにはソープにも行け!」
…と、なんでもかんでもソープランドで解決してしまっていた印象は拭えません。最後のヤツはぼくの捏造ですが…(笑)。
ただ、回答が多岐多様化しつつある昨今の人生相談界において、すべての結論を(強引に)「ソープへ行け!」へと落とし込む帰納法的な発想は、むしろ貴重だったりもするのかもしれません。
たとえば、
「カノジョができない」
…と悩んでいる男子がいたとします。その原因を「お金がない」「運動神経が鈍い」「極度の対人恐怖症」「外見が冴えない」「ファッションセンスに問題あり」「性格に難あり」「職場が男オンリー」…などに分割し、該当する要素ごとに細かく“正解”を見いだす、いわば
フローチャート式な手法が最新の21世紀型人生相談スタイルです。
しかし、それは根本を辿れば、すなわちAIのアルゴリズムと同じ思考回路であり、だったらいっそ人工知能に悩みを打ち明けたほうがデータも豊富で、より高い精度の解決の糸口を得られるのではないでしょうか。
対する、
「カノジョができない」
→「ソープへ行け!」
…とのややこしいプロセスを一切すっ飛ばした清々しいまでの叱咤激励は、一見
「なに言ってんだ、このおっさんは?」
…みたいなピント外れ感は否めませんが、よくよく熟考すれば
「ソープに行って、セックスを背景にする
コンプレックスを払拭する」
「ソープに行って、女性との接し方を学ぶ」
「ソープに行って、ソープ嬢をナンパする」
…と、案外(?)的を射た神のお告げであるような雰囲気もしなくはありません。
もし、あなたが恋愛にかぎらず、なにか深刻な悩みを抱えているなら、ネット上に氾濫する毒にも薬にもならない“なんちゃってカウンセラー”の戯れ言に目を通したり、高いお金を払って占い師を頼ったりする前に、とりあえずは
「ソープに行け!」
…を起点とし、そこから溯って現在の自分を見つめ直してみてはいかがでしょう?