Vol.578 続々・注文の多いAV女優
ちょっとホラーな切ない、Gジィさんのむかしむかしの淡い
恋物語の第三回め──小説風に仕立て上げています。
つまらない話だけど…聞く?
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そのAV女優がつくってくれた早めの晩ご飯は、
とても家庭的で、美味しかった。
鶏の唐揚げと水餃子が各30個ずつに冷や奴が2斤。
肉野菜炒めが大皿に、白米がどんぶりに山盛り…。
そんなゴージャスな食卓で対面するぼくに、
「どうぞ」とビールをコップに注いでくれながら、
恋人みたいな笑みを浮かべ、
彼女はこんな注文をしてくる。
「いっぱい食べてね〜(ハートマーク)」
栄養のバランスも完璧だ。ただ、
「量感覚」
…があきらかに、おかしい。
普段は大食い自慢でならす、
さすがのぼくも残しそうになってしまう。
「美味しくなかった?」
…と、寂しげに訴えかけてくる彼女──まるで、
「この世の終わりが近づいている」
…かのような憂いすら感じさせる
切羽詰まった表情だ。
「いやいや!
ちょい休憩してる
だけだから…
これからは
お酒飲みながら
ゆっくり食べるから…」
本来、あまり得意ではないビールを缶チューハイに変え、ぼくは残ったおかずを、冷や汗を垂らしながら
胃袋へと流し込む。
そのAV女優は、おもに水餃子と野菜炒めを申しわけ程度につまみながら、飲酒のペースをゆるめない。
すでに、ちゃぶ台にどかんと置かれた
フォアローゼス(のフルボトル)を、
ストレートの手酌でぐいぐいイッている。
「観て観て〜!
アタシが出てるブイ!!」
次の新しい注文だ。
パッケージに本人のAVネームとセミヌード写真が掲載されているケースからDVDを取り出し、
そのAV女優はDVDデッキに挿入する。
ぼくをその気にさせたいのか、少しでも
「アタシを知ってもらいたい」
…のか、単なるヒマつぶしなのか…それとも自身の演技がユーザー側にはどう映るのかを確認する
「AV女優としての職業意識」
…なのか…そこらへんの意図がよくつかめない。
とは言え、ぼくの性癖として、
「当事者の眼前で
当事者が出演する
アダルトビデオを
鑑賞する」
…という倒錯的かつ耽美なシチュエーションは、
猛烈に欲情してしまう。
「オナニー
したくなったら
していいからね…」
ぼくのリビドーをMAXにまで駆り立てる魅惑の注文も…。しかし、ここはなんとしてでも我慢したい──だって、ここで出してしまえば…あとのセックスに響くではないか! ぼくは一度射精すると、回復に最低6時間はかかってしまうのだ。
そのAV女優が3本目の主演作品をDVDデッキに挿入する。男だったら、ほぼ十人中十人が早送りするであろう寸劇の部分も通常再生で、じっくり…延々と観続ける。
すでに2時間が経過しようとしていた。
フォアローゼスのボトルは早くも3分の2以上が
無くなっている。ぼくはもっぱら缶チューハイで、
ノドを潤す程度にチビチビと口にするだけだ。
「オナニー…
してくれないの?」
またもや「世界の終わり」のような寂しげな表情で彼女が注文を上乗せしてくる。
もはやザーメンの残量を計算ししながら出し惜しみする雰囲気ではなくなってきた。
しょうがないから、ぼくはそのAV女優が見守るなか、
ズボンとパンツを脱いでTシャツ一丁姿でオナニーをしはじめる。
「ねえねえ!
コレさあ…自分でシゴくのも
なんか虚しいから
なんとかしてくんない?」
怒張しきった股間付近を指さし、
ぼくは彼女に会ってはじめての注文を試みる。
「じいクンとは
プラトニックで
いたいから…
フェラだけだよ!」
…と、そのAV女優はぼくのイチモツをくわえ、
舌を複雑に這わせてくる。彼女の場合は
「挿入しなければ
プラトニック!」
…という貞操観念なのか…?
「人のモラル観」というものは、
まさに千差万別である。
テレビのモニター上で、
そのAV女優が二人の男優に姦され、
よがりまくっている…。
まもなくぼくは果ててしまう。
「超うれしい…
アタシのブイで
こんなに早く
イッてくれて…」
口からザーメンをティッシュに吐き出しながらぼくの早漏をポジティブな解釈でねぎらうと同時に、彼女はベッドに横たわる。
添い寝してみると、もう寝息を立てていた…。
「ぼくはこれから
どうすればいいのだろう?」
とりあえずは眠ろう…今日はいろんなことが、ありすぎた。
(次回に続く)
※この物語の当時は「セクシー女優」という呼び名がまだなかったため、文中ではすべて「AV女優」に統一しています。