Vol.593 【Gジィさんの夢日記(8)番外編?】ランナーズ・ハイ
早朝6時からはじまった草野球の公式リーグ戦──
2点ビハインドの最終回…1アウト一二塁の絶好期で
同点の二塁打を打った。
転々と右中間に転がるボールをライトが取りこぼすのが見え、ぼくは急いで二塁も回る。
ライトからのいい返球が、三塁へ全力疾走する
ぼくの背中に迫ってくる…。
「ランナーズ・ハイ状態」
…になっているぼくの脳裏に、いろんな過去の残像が
走馬燈のように、駆けめぐる……。
……「いっしょに遊ぼ!」
10年近く前の話である。どんなきっかけで知り合ったかはもう忘れてしまったが…その彼女は、(ぼくの記憶の限りでは)
出会ってたった1時間程度でしかなかったのに、早くもぼくを
こんな言葉で誘ってきた。
なんでもその彼女は、
「ラブホで男と遊ぶ」
…のが大好き…なんだとか。ほぼ、
「逆ナン」
…と呼んでも差しつかえない奇跡的なハプニングに、
「冗談でしょ?」
…と、ぼくは自分の耳を思わず疑った。疑って、
「あまり期待しすぎると
…後がつらいぞ!」
こう自分に言い聞かせた。
でも、その彼女からは後日、ぼくのLINEに同じ誘い文句が届き…しかも、具体的な日にちと時間、待ち合わせ場所までが明記してあった。
もちろん、ぼくが小躍りしたのは言うまでもない…が、実際にその彼女と対面できる瞬間まではまだまだ油断が
できない。どうも話が上手すぎてならないのだ。
約束の当日──本当に、その彼女は指定してきた場所に、時間通りやってきた。
肩にまるでスタイリストのような、
「大きな布製の
黒いショルダーバッグ」
…をかけていた。
そのバッグにはなにかいろんな物が入っているみたいで、
ところどころが不自然な格好で出っ張っている。
「ムチとかローソク
…じゃないか?」
…と、とりあえずは推測してみた。とくにぼくSM嗜好が強いわけではないけれど…理解度は並の男より、
多少なりとも深い。
「流血未満」
…なら、まったく問題はない。
メシも喰わず、酒も飲まず、いきなりラブホテルに
向かうことになった。
「ホテルの出前とかで
イイんじゃない?」
…と、現在に例えるなら、ウーバーイーツのCMの夏木マリ
っぽい口調で、その彼女が言ってきたからだ。
ぼくとしては、やはり問題はない。
「お先に〜!」
──ラブホの個室に入って5分も経たないうちに、
その彼女がシャワーを浴びに行く。
「一刻も早く
遊びたいんだね…」
このときのぼくは、
もはやとてもポジティブ思考であった。
シャワーを浴びて浴室から出てきたその彼女は、
すでに全裸だった。バスタオル一枚纏(まと)っていない。
Eカップほどのボリュームのバストに、
アバラが透けるほどにくびれたウエスト──
身長は165センチ弱…あたりか。
膝から下も日本人の割には長い。
「なんて素晴らしい
プロポーションなんだ!」
…と、ぼくは生涯数度あるかないかの幸運に
心の拍手を贈り、猛烈に勃起する。
股間とアナル周辺だけを入念に洗い、
急いでぼくもシャワーを終える。
すると! その全裸の彼女は、ベッドの上で膝立ちに
なり両手を前に突き出していた。
なにやら黒くて妙な存在感のあるグッズを持っている。
「コルトガバメント」
…だった。銃口はぼくのほうを向いている。
「プシ! プシ! プシ!」
丸い小さな弾丸の一発がぼくのへその上あたりに命中する。
「エアガン」
…だ。エアガンとはいえ、むき出しの肌にBB弾は、
相当に痛い。ぼくはフルチンのままシャワー室の前で
「うううっ…」
…とのたうち回り、とっさにベッドの陰に身を隠す。
スタイリストみたいに大きな黒いバッグを幼稚園掛けにしながら、拳銃をかまえてぼくのほうに躙(にじ)り寄ってくる彼女は、まるで映画の
『バトルロワイヤル』
(深作欣二監督)
…に出演していた柴崎コウのようだ。ただ、映画の柴崎コウは中学校の制服を着ていたが、その彼女は全裸──
そこだけが違っていた。
「待って待って!
ちょっと待って!!」
フルチンでBB弾をよけながら部屋中を
ジグザグに走り逃げ回る
「ランナーズ・ハイ」
…状態のぼくは、泣いているんだか笑っているんだか
よくわからない複雑な表情を浮かべながら、
「防戦一方」
…という、あきらかに不利な戦況で、そんなぼくを
その彼女はニコニコしながら全裸で追いつめ、
エアガンの全弾を撃ち尽くす。
そして、バッグの中から今度は
「ウジ・マシンガン
(※↑エアガン)」
…を取り出し、ぼくに標準を合わす。
「プシプシプシ!」
…連射ができるタイプだ。このままではやられてしまう…当たりどころによっては
「流血」
…だって、あり得なくない──もしかして
「ぼくの許容範囲」
…を超えはじめているのではないか?
「本気で
遊びたかった
だけなんだね…」
ようやく現実を受け入れたぼくはベッドにあった
枕(まくら)を手に取り、それを盾にして…恍惚に浸った
狂気の目つきでウジマシンガン(※←エアガン)を
全裸で乱射するその彼女に、
「一か八かの突撃」
…を試みた……。
……足がもつれ、前のめりな姿勢になってしまう。
そのまま重力に身を委ねて、まだ野球を始めて
一度もやったことがないヘッドスライディングに
トライすることを決意する。
三塁上でのクロスプレイ──判定は
「アウト」
…だった。