Vol.577 続・注文の多いAV女優 - ハプニングバーagreeable アグリーアブル

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ColumnGジィさんの独り言
 

Vol.577 続・注文の多いAV女優

ちょっとホラーな切ない、Gジィさんのむかしむかしの淡い

恋物語第二回め──小説風に仕立て上げてあります。

 

つまらない話だけど…聞く?

 

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「オニイサン…

アタシ◯

付き合ってよ!」

 

『吉野家』から出てすぐ…そのAV女優からの唐突な注文に、

ぼくは戸惑いながらも思わず胸をときめかせた。

 

彼女の呂律はすでにかなり怪しく…

おまけに早口だったので、

「◯の部分がよく聞き取れなかった。

 

「と」=男女としての

交際をしてください

 

…という意味なのか? それとも、

 

「に」=これからどこかに

行くのに付き添ってください

 

…という意味なのか? たった一つの助詞が変わるだけで

ニュアンスはまったく異なってくる。まあ、おそらく

 

「に」

 

…のほう…なんだろう。が、いずれにしても悪くない展開であることに間違いはないので、ぼくは30分後に近くのカフェでミーティングの約束をしていた先方さんに、携帯電話(※当時はまだスマホもLINEもなかった)で連絡をとり、キャンセルの意をただちに伝えてから、ほいほい

 

「いいですよ〜」

 

と、できうるかぎりの爽やかな笑顔をつくり、即答──ふたたび彼女を助手席に乗せて、ポルシェのイグニッションキーを回す。

 

「で、どこに

付き合えばいいの?」

 

左手に煙草を挟み、右手でハンドルを操りながら、

そうさらり問いかけるぼくは、我ながらカッコイイ

 

「お腹すいた〜!」

 

と、そのAV女優は上目遣いでせがんでくる。やっぱ、

 

「に」

 

…のほうですか…。早い話が金づるとして、メシに付き合わされるだけなんですな…と、ホンのちょっぴり落胆した。

でも、それなりに可愛くて若い女性なら充分許される──

仕事をドタキャンするに値する部類の注文ではないか。

もちろん、ぼくは腹も立てずに

 

「OK!」

 

…と首肯する。

 

「キミ、さっき吉野家で…

牛皿食べてたよね?」

 

…とは聞かなかった。あれはおそらく

 

「食事ではなく

ツマミ…

だったんだろう」

 

…と(強引に)自分を納得させる。

食欲旺盛な女性は大好きだ。

 

「じゃあ

表参道あたりでお店

…探そうか?」

 

原宿すぐそばのお洒落なスポット…無難な提案だったと

思う。しかし、そのAV女優が口にした次の注文は…

ぼくがまったく予想していないものであった。

 

「やだぁ〜! 

アタシん家

来て〜!!」

 

「ごはん、

つくるからさぁ!」

 

え!? もしかして

 

「と」

 

…のほうですか??? ぼくのことを

 

「オニイサン」

 

…と呼ぶ彼女は、まだぼくの名前すら知らないはずだ。

 

「そんな

薄っぺらな関係で

その注文

いくらなんでも

気が早すぎるのでは!?」

 

…と、若干の不安が胸をよぎりつつも、

 

「ボ、ボク…

ファーストネームの

頭文字が『G』だから

とりあえずは

『じいクン』って

呼んでくれる?」

 

…と、ぼくは性急おたがいの距離を少しでも縮めるため、

そうお願いをした。

 

「いいじゃないか! 

向こうから誘って

くれてんだから!!」

 

そのときのぼくは…彼女の、普通に考えたら

尋常じゃない注文懸念を抱くよりも、

 

「一生に一度

あるかないかの

ラッキーな状況」

 

…に、ただ浮かれるばかりであった。とどのつまりが

 

「脳天気」

 

だったのだ。

 

そのAV嬢の自宅は、原宿からクルマで1時間くらいの所にあった。

一応、東京23区内だが…「女優」と名のつく、いわゆる

 

「派手な職業に就く人種が好む区」

 

…ではなかった。

 

マンションではない、どこにでもありそうなつくりの小ざっぱりとしたアパートの2階の一番奥で、間取りは2DK──高額な報酬と引き替えに人前で裸と性交を晒すリスクを背負うAV女優…しかも(当時)それなりに売れっ子だったはずの彼女には、正直

 

「不釣り合いな質素さ」

 

…といえる。

 

部屋は綺麗に片づいている。無駄な物はなにもない。一つの部屋に白いちゃぶ台テレビが置かれていて、もう一つの部屋にベッド

オーディオコンポ…そしてキッチンには洗濯機冷蔵庫…独り暮らしをする女性の部屋にしては、あまりに味気なく

かといって男の匂いを感じさせるわけでもない。

 

「ちょっと買い物

行ってくるけど…

冷蔵庫にあるモノ

勝手に飲んでて〜」

 

ありがとう…と、冷蔵庫を開けて、ぼくは思わず目をしばたかせる。食材が一切入っていないのだ。

家庭用サイズより心もち小さめの冷蔵室の約7割は、

 

「缶ビール缶チューハイ」

 

…でびっしり占められていて、残り3割ミネラルウォーターコーラポカリスエットのペットボトル──冷凍庫にはコンビニで市販されているクラッシュアイスが溢れんばかりに詰まっている。

 

「このコ…

なんかヘン?」

 

ただ、コーラをこよなく愛するぼくは、まだこの時点では所々で顔を出す違和感に目を向けることもなく、

 

「なんてステキな

チョイスなんだ!」

 

と、好意的な見方しかできないでいたのである。

 

(次回に続く)

 

※この物語の当時は「セクシー女優」という呼び名がまだなかったため、文中ではすべて「AV女優」に統一しています。